先月、自分らしい道を見つけた女性たちのレポートを公開した。とても好評だったため、今後も随時、ヨーロッパから素敵な女性たちを紹介していきたい。
今回は、スイスで創作人形制作に勤しむシュタイナー小畑典子さん(50代) http://www.atelierkirin.com/japanese/ 。
シュタイナーさんは結婚して以来スイスに住んでいる。30年近くが経とうとしている。シュタイナーさんを知ったのは、つい先日のこと。すべて独学で歩んできたと聞き、お話をうかがいたくなってアトリエにお邪魔した。
シュタイナーさんの人形は何と言っても表情が優しい。そして、人形たちが身に付けている衣装が美しい。懐かしい雰囲気がただようと思ったら古い着物の端切れや、独特の趣を持つアジア諸国の布地を使っているという。イヤリングなどの装飾具は、年代物のかんざしや指輪などの一部を使っている。 帰国の際に学生時代から馴染みのある京都の骨董市で材料を見つけたりもする。
美術館で鑑賞する絵画も心が癒されるが、こんなにも人の心に訴えて、なごやかな気分にしてくれる人形があるなんて。
「私の人形は無国籍です。すべて、私の想像の世界に住む人たち。静かに、もの思う人が多いです。見る人それぞれの心に寄り添ってそこにたたずんでいる、そんな人形を創りたいと願っています」と言うシュタイナーさんの人形作りは、スイスに住んで10年経ったころから始めた。
絵を描くのが好きで、京都で友禅染の仕事をしていた彼女は、手工芸が得意。息子が2人生まれ、キツネやネコの頭を粘土で、体を布と綿で作った簡単な手人形を作っているうちに、人の形を作りたいと思うようになった。
「作り方が全然分からないので、日本に帰国したときに人形教室をのぞかせてもらったり、作り方の本を見たりと、材料も方法も試行錯誤でした」
ある日、誰でも使える銀行のショーウィンドーで飾らせてもらうことにした。
「これは第一歩を踏み出すきっかけになりました。ものすごく気に入ってくれた方がいて、買って下さったんです。続けてみようかなと、大きな励みになりました」
世界は少しずつ広がっていった。スイスで人形作家たちと知り合い、それがきっかけで、ドイツで毎年開催されている人形展に出展するようになった。
そんな頃、御主人が大病を煩った。
「暗い気持ちに陥る日々が続きました。でも、子どもたちには不安は見せないようにしました。呑気だとは思いつつも、人形を作らずにはいられなかったです。粘土を触ったり針を動かしたりして、少しずつ形になっていく人の形を見ていくことで不思議に心が静まっていたからです。義母の励ましにも精神的にとても助けられました。私の人形を認めてくれて、作り続けるように言ってくれました」。
静かに見守ってくれていたご主人は、2001年に他界した。翌年、地元のギャラリーを借りて開いた初めての作品展は、人形制作を自分のライフワークにしようと決心させる大きな布石になった。たくさんの人が暖かい励ましの言葉をかけてくれた。それが続ける勇気を与えてくれた。その後も人物デッサンや造形のコースを取ったりと、自分に出来る事を少しずつ積み重ねて行った。衣装も布や糸で遊ぶ感覚で、思いつくままにいろいろな事を試した。そして、定期的に、グループ展に参加したり彫金やテキスタイル等の別の分野の作り手達とのコラボ展を行ってきた。
“自分の作ったものを通してスイスに住む人達と繋がっていくことができる。それが私の喜び、生き甲斐です。”
そんな中、去年、ドイツの創作人形コンクールMaxOscarArnold賞の最高の栄冠、ライフワーク賞を受賞するという嬉しい出来事があった。人形制作を始めて20年近くが過ぎていた。
制作するときに浮かぶのは、若いころにアジアの旅先で見た素朴に生きる人々、仏像やマリア様など、長い間、人々が祈りを捧げてきた像だという。古い布や小物からもインスピレーションがわく。どんな所で、どんな人が手掛けたのか。昔の日本や未知の国で暮らす人々の姿をイメージするという。
1年に制作できる人形は7,8体ほど、、買い手が付けば、彼女のもとを去っていく。彼女のいろいろな想いの籠った人形は、これからもスイスに住む人たちに愛されていくだろう。彼女の人形から、ときに安らぎを、ときに勇気を与えられて。
Feb. 2015 フリージャーナリスト 岩澤里美